一針に願いを込めて
- 2016/03/09
- 21:14
久々に(?)ツバカム新作を書きましたので投下するでする。2839文字でする。短いでする。
ゲーム進行状況はですな、現在白夜18章までクリアでする。そして真っ先にツバキさんと支援Sになりました・・・子供たちも迎えて、一家四人で前線に立ってもらってまする。
17章ラスト見ながら泣きそうでした・・・フローラさん・・・暗夜で幸せにするからな・・・待っててくれ・・・(´;ω;`)
それでは本文いってみませう。追記からどぞー(・ω・)ノ
「勝負あったね。俺の勝ちだよー」
目の前の息子にそう宣言し、びゅんっと薙刀を振った。その勢いに押されて尻餅をついた息子、カンナは一瞬ポカンとした後で自分の負けに気づいたようだ。みるみるうちに目に涙が溜まり、うわぁぁんと泣き出してしまった。
「もう少しで勝てそうだったのにー! うわぁーん!」
その姿に少しの罪悪感を感じつつも、勝ちの景品の内容を考えると、やっぱり勝ててよかったと安堵する。
「カンナの泣き声!? な、何事ですか!?」
愛息子の泣き声を聞き付けたからだろう、マイルームでサクラ様やヒノカ様とお茶をしていたはずのカムイが慌ててこちらへ走ってきた。そして、尻餅をついて泣いている息子とその真正面で薙刀を構えている俺、さらに傍らで立ち会い人をしていた娘へと視線を巡らせる。
「んーとね、あるものを賭けて勝負してたんだよー」
「あるもの?」
「・・・あれよ、サクラ叔母さまに習って母さんが作ったっていう刺繍入りの布袋。特に渡す相手決めてないって言ってたから、なら自分がもらうんだって二人とも言い出して・・・」
「あぁ、あれ・・・」
得心がいったようで、カムイはこくりと頷いた。そして、その動きにあわせて亜麻色の長い髪がふわふわと揺れる。
構えを解いてカムイに近づき、その髪に手を差し入れて頬と耳を同時に撫でた。カムイの頬が一瞬で色づき、紅緋の瞳が熱っぽく潤み出す。
「カムイが手ずから作ったものだって聞いたからね・・・いくら息子でも、やっぱり譲りたくはないじゃない」
じいっと眼を見つめながら囁きかける。頬に触れていない方の手を背中の方に回し、その体を引き寄せた。
「どんなやつなの? 見せてくれる?」
そう頼むと、カムイの瞳が揺らいだ。少々困惑しているような表情をしているようだが、なぜなのだろう。
「あの・・・何で知っているんですか?」
「え?」
「私がサクラに習って刺繍をしているのは、マトイしか知らないはずでは・・・」
「そのマトイが教えてくれたんだ」
そう言ってマトイに目を向ける。カンナを起こしていたマトイは、俺と目が合うと少々ばつが悪そうな顔をした。
「最近のカムイは部屋に籠りがちだったでしょー。だから、何をしているんだろうって思って、カムイとよく一緒にいるマトイに聞いてみたら『サクラ叔母さまと一緒に刺繍の練習してるみたい』って言うからさー」
「・・・その後で『サクラが根気よく教えてくれたおかげで何とか形になりました!』って言って見せてくれた完成品の事も話したの」
「そうだったんですね」
「特に口止めもされてなかったからいいだろうと思ったんだけど、こんな騒ぎになっちゃった。父さんもカンナも母さん大好きだから、取り合いになりそうな事は予想できたのに・・・ごめんなさい」
そう言ってマトイが頭を下げる。すると、腕の中のカムイがもぞもぞと動き出した。マトイに謝らせてしまった申し訳なさから、今回はすぐに腕の力を緩めてカムイを解放する。
「マトイの所為ではありません。気にしないで」
「でも・・・」
「完成したと言っても袋は手の平に乗るくらいのサイズだし、刺繍もいくつかの四角を組み合わせたような単純なものだから欲しがる人なんていないだろう、そう思って止めなかった私にも責があります。繕ったはずなのに前よりもぼろぼろになっている手ぬぐいやよく分からない不可思議な模様のお面、女性ものの櫛でさえ、ツバキさんは私が修繕した、あるいは選んだものなら欲しいとおっしゃった事があるので・・・」
そんな母の言葉を聞いた途端、二方向から視線が突き刺さった。マトイもカンナも、二人して唖然としている。カムイは特に可笑しな事は言っていないと思うのだけれども、なぜそんな眼で見てくるのだろうか。
「・・・ツバキさん、カンナ」
おずおずと声を掛けられたので、そちらを振り返る。カムイは俺とカンナを交互に見た後で、言いにくそうに口を開いた。
「今回作っていたのは、刺繍に慣れるために練習で作ったものなんです。自分の中ではそれなりに出来たと思いますけど、人にお渡しするにはやっぱりまだまだだと思うので・・・もともと自分で使おうと思っていたんです」
一言一言、ゆっくりと諭すように告げるカムイ。カンナの方は、それならしょうがないやーと言いだした。
「・・・俺はそれでも構わないから、欲しいけどなー」
諦めつつも、一縷の望みをかけてねだってみる。しかし、カムイは首を横に振った。
「ごめんなさい。いくらツバキさんの頼みでも、それは・・・」
「・・・わかった」
今にも泣き出しそうな顔で言われたんでは、流石に押し切れない。二人きりだったならまだ粘れたが、マトイもカンナもいるこの状況では『母さんをいじめるな』と言って二人とも怒りだしかねない。
「あの、次のは渡せるように頑張ります」
「次の?」
「はい。今三人分のお守りを作っている最中なんです。中に入れるお札はオロチさんに作って頂いたものなので、効力は確かですよ」
「へえ、確かに効きそうだねー」
「それに・・・」
そこで一度言葉を切ったカムイが、こちらに近づいて来た。きゅっと手を握られ指を絡められて、その感触にどきりと心臓が跳ねる。
「刺繍って普通に縫うよりも糸をたくさん使って縫うから、完成品は結構丈夫になるんです。そして、一針一針縫う度に願いを込めて縫い込むから、作り手の想いが籠りやすいものなんだと聞きました」
「願いを込める、かぁ」
「はい。でも、無意識に願う事も籠ってしまうそうなので、そうなると・・・前に作った布袋の方には『刺繍が上手くなりたい』っていう私の願望が籠っている事になるんです。だから、そっちではなくて・・・『ずっと元気でいてくれますように』という思いを込めて一針一針縫っている方をお渡ししたくて。だから、そちらが完成するまで待っていて下さいませんか?」
カムイの両手が、俺の右手を包む。手の平の方はいつも通り滑らかなのに、指の先の方はすこしざらついている。カムイはあまり器用な方ではないから・・・これは、針で刺してしまった跡だろうか。
彼女の手を包み直し、指先を確認する。思った通り、ぽつぽつと小さなかさぶたがいくつかあった。
こんな風に指を怪我してでも、願いを込めて作ってくれるのか。俺や二人の身を案じてくれるのか。刺繍の大変さを知っているからこそ、それでも願いを込めて作りたいという思いの強さに心を打たれる。献身、という言葉では言い表せないくらいの、強くて・・・温かい想い。
そのままさらに手を引き寄せる。そして、労わるようにそっと先に口付けた。驚いたのか、カムイは慌てて手を離そうとしたけれど、力を込めて逃げられないようにする。
「んっ・・・」
しばらく唇で触れた後で、そっと離した。そして、赤く染まっているカムイの頬を撫でながら、同じく赤い色の耳に向かって囁いた。
「分かったよ。楽しみにしてるから、頑張ってね」
改めてカムイの方を見遣る。すると、にっこりと目を細めながら『はい、頑張ります。』と言ってくれた。
(完)
ゲーム進行状況はですな、現在白夜18章までクリアでする。そして真っ先にツバキさんと支援Sになりました・・・子供たちも迎えて、一家四人で前線に立ってもらってまする。
17章ラスト見ながら泣きそうでした・・・フローラさん・・・暗夜で幸せにするからな・・・待っててくれ・・・(´;ω;`)
それでは本文いってみませう。追記からどぞー(・ω・)ノ
「勝負あったね。俺の勝ちだよー」
目の前の息子にそう宣言し、びゅんっと薙刀を振った。その勢いに押されて尻餅をついた息子、カンナは一瞬ポカンとした後で自分の負けに気づいたようだ。みるみるうちに目に涙が溜まり、うわぁぁんと泣き出してしまった。
「もう少しで勝てそうだったのにー! うわぁーん!」
その姿に少しの罪悪感を感じつつも、勝ちの景品の内容を考えると、やっぱり勝ててよかったと安堵する。
「カンナの泣き声!? な、何事ですか!?」
愛息子の泣き声を聞き付けたからだろう、マイルームでサクラ様やヒノカ様とお茶をしていたはずのカムイが慌ててこちらへ走ってきた。そして、尻餅をついて泣いている息子とその真正面で薙刀を構えている俺、さらに傍らで立ち会い人をしていた娘へと視線を巡らせる。
「んーとね、あるものを賭けて勝負してたんだよー」
「あるもの?」
「・・・あれよ、サクラ叔母さまに習って母さんが作ったっていう刺繍入りの布袋。特に渡す相手決めてないって言ってたから、なら自分がもらうんだって二人とも言い出して・・・」
「あぁ、あれ・・・」
得心がいったようで、カムイはこくりと頷いた。そして、その動きにあわせて亜麻色の長い髪がふわふわと揺れる。
構えを解いてカムイに近づき、その髪に手を差し入れて頬と耳を同時に撫でた。カムイの頬が一瞬で色づき、紅緋の瞳が熱っぽく潤み出す。
「カムイが手ずから作ったものだって聞いたからね・・・いくら息子でも、やっぱり譲りたくはないじゃない」
じいっと眼を見つめながら囁きかける。頬に触れていない方の手を背中の方に回し、その体を引き寄せた。
「どんなやつなの? 見せてくれる?」
そう頼むと、カムイの瞳が揺らいだ。少々困惑しているような表情をしているようだが、なぜなのだろう。
「あの・・・何で知っているんですか?」
「え?」
「私がサクラに習って刺繍をしているのは、マトイしか知らないはずでは・・・」
「そのマトイが教えてくれたんだ」
そう言ってマトイに目を向ける。カンナを起こしていたマトイは、俺と目が合うと少々ばつが悪そうな顔をした。
「最近のカムイは部屋に籠りがちだったでしょー。だから、何をしているんだろうって思って、カムイとよく一緒にいるマトイに聞いてみたら『サクラ叔母さまと一緒に刺繍の練習してるみたい』って言うからさー」
「・・・その後で『サクラが根気よく教えてくれたおかげで何とか形になりました!』って言って見せてくれた完成品の事も話したの」
「そうだったんですね」
「特に口止めもされてなかったからいいだろうと思ったんだけど、こんな騒ぎになっちゃった。父さんもカンナも母さん大好きだから、取り合いになりそうな事は予想できたのに・・・ごめんなさい」
そう言ってマトイが頭を下げる。すると、腕の中のカムイがもぞもぞと動き出した。マトイに謝らせてしまった申し訳なさから、今回はすぐに腕の力を緩めてカムイを解放する。
「マトイの所為ではありません。気にしないで」
「でも・・・」
「完成したと言っても袋は手の平に乗るくらいのサイズだし、刺繍もいくつかの四角を組み合わせたような単純なものだから欲しがる人なんていないだろう、そう思って止めなかった私にも責があります。繕ったはずなのに前よりもぼろぼろになっている手ぬぐいやよく分からない不可思議な模様のお面、女性ものの櫛でさえ、ツバキさんは私が修繕した、あるいは選んだものなら欲しいとおっしゃった事があるので・・・」
そんな母の言葉を聞いた途端、二方向から視線が突き刺さった。マトイもカンナも、二人して唖然としている。カムイは特に可笑しな事は言っていないと思うのだけれども、なぜそんな眼で見てくるのだろうか。
「・・・ツバキさん、カンナ」
おずおずと声を掛けられたので、そちらを振り返る。カムイは俺とカンナを交互に見た後で、言いにくそうに口を開いた。
「今回作っていたのは、刺繍に慣れるために練習で作ったものなんです。自分の中ではそれなりに出来たと思いますけど、人にお渡しするにはやっぱりまだまだだと思うので・・・もともと自分で使おうと思っていたんです」
一言一言、ゆっくりと諭すように告げるカムイ。カンナの方は、それならしょうがないやーと言いだした。
「・・・俺はそれでも構わないから、欲しいけどなー」
諦めつつも、一縷の望みをかけてねだってみる。しかし、カムイは首を横に振った。
「ごめんなさい。いくらツバキさんの頼みでも、それは・・・」
「・・・わかった」
今にも泣き出しそうな顔で言われたんでは、流石に押し切れない。二人きりだったならまだ粘れたが、マトイもカンナもいるこの状況では『母さんをいじめるな』と言って二人とも怒りだしかねない。
「あの、次のは渡せるように頑張ります」
「次の?」
「はい。今三人分のお守りを作っている最中なんです。中に入れるお札はオロチさんに作って頂いたものなので、効力は確かですよ」
「へえ、確かに効きそうだねー」
「それに・・・」
そこで一度言葉を切ったカムイが、こちらに近づいて来た。きゅっと手を握られ指を絡められて、その感触にどきりと心臓が跳ねる。
「刺繍って普通に縫うよりも糸をたくさん使って縫うから、完成品は結構丈夫になるんです。そして、一針一針縫う度に願いを込めて縫い込むから、作り手の想いが籠りやすいものなんだと聞きました」
「願いを込める、かぁ」
「はい。でも、無意識に願う事も籠ってしまうそうなので、そうなると・・・前に作った布袋の方には『刺繍が上手くなりたい』っていう私の願望が籠っている事になるんです。だから、そっちではなくて・・・『ずっと元気でいてくれますように』という思いを込めて一針一針縫っている方をお渡ししたくて。だから、そちらが完成するまで待っていて下さいませんか?」
カムイの両手が、俺の右手を包む。手の平の方はいつも通り滑らかなのに、指の先の方はすこしざらついている。カムイはあまり器用な方ではないから・・・これは、針で刺してしまった跡だろうか。
彼女の手を包み直し、指先を確認する。思った通り、ぽつぽつと小さなかさぶたがいくつかあった。
こんな風に指を怪我してでも、願いを込めて作ってくれるのか。俺や二人の身を案じてくれるのか。刺繍の大変さを知っているからこそ、それでも願いを込めて作りたいという思いの強さに心を打たれる。献身、という言葉では言い表せないくらいの、強くて・・・温かい想い。
そのままさらに手を引き寄せる。そして、労わるようにそっと先に口付けた。驚いたのか、カムイは慌てて手を離そうとしたけれど、力を込めて逃げられないようにする。
「んっ・・・」
しばらく唇で触れた後で、そっと離した。そして、赤く染まっているカムイの頬を撫でながら、同じく赤い色の耳に向かって囁いた。
「分かったよ。楽しみにしてるから、頑張ってね」
改めてカムイの方を見遣る。すると、にっこりと目を細めながら『はい、頑張ります。』と言ってくれた。
(完)
- テーマ:二次創作:小説
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:ツバカム短編(FEif)
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